「しまなみ海道、一度は自転車で走ってみたい」そう思ったことはあっても、「体力に自信がない」「長い距離は走れない」と、どこかハードルを感じている人も多いのではないでしょうか。でも、しまなみ海道の楽しみ方は、なにも走破することだけではありません。橋を渡って、気になる景色で足を止める。島のおいしいものを味わって、海を眺めながらひと休みする。そんな気ままな自転車散歩「ポタリング」も、しまなみ海道ならではの楽しみ方です。そこで今回は、“ちょっとゆるめのしまなみ海道”をテーマに、今治に暮らすローカルサイクリスト・倉瀨満帆さんと一緒に、大島までポタリングに出かけることにしました。倉瀨満帆さん:今治の風と海を愛するローカルサイクリスト。お気に入りの寄り道スポットを、お散歩気分のゆるいポタリングで案内してくれます。目指すのは、今治から最初の島・大島。海を眺め、カフェでひと息。旅の締めくくりは、海を望む温泉です。「今日は頑張って走るというより、しまなみ海道を楽しみましょう。」倉瀨さんのひと言に、肩の力が抜けました。気合いはほどほど、寄り道は大歓迎。そんな、はじめてのポタリングへ出発です。まずは、橋を眺めて気分を上げるスタートは、来島海峡大橋のたもとにある「今治糸山レンタサイクル(サンライズ糸山)」。ここで自転車を借りれば、ヘルメットも一緒に貸してもらえるので、手ぶらでも安心です。さて、装備もバッチリ整ったところで、まずは橋を眺められる来島海峡展望台へ。三連吊り橋・来島海峡大橋が、青い海と空の間を渡るように、目の前いっぱいに広がっています。「何回来ても、やっぱりテンション上がりますね。」その気持ち、よく分かります。まだペダルを一度も踏んでいないのに、もう写真を何枚も撮ってしまいました…。海を行き交う船の汽笛が響いて、「これから旅が始まる」という気持ちが少しずつ高まっていきます。どうやらしまなみ海道には、出発前から人をわくわくさせる力があるようです。橋を渡るというより、景色の中を走るさあ、いよいよ出発です。橋へ向かう坂道をゆっくりと上っていくと、少しずつ視界が開け、空がぐっと近づいてきます。ふと横を見ると、今治らしい大きな造船所のクレーンがそびえています。「サイクリングしながら、今治ならではの景色や『らしさ』を感じられるのも、しまなみ海道の魅力の一つなんですよね」そう話す倉瀨さん。そう、世界有数の造船のまち・今治ならではの風景もまた、このルートならではの見どころです。そして橋の上へ。目の前いっぱいに広がるのは、瀬戸内海の大パノラマ。 「気持ちいい!」思わず声が漏れます。左右に広がる青い海。その上をゆっくり進む船。潮の流れが描く白い筋。遠くに浮かぶ島々。ペダルを踏むたびに少しずつ景色が変わり、気づけば何度も視線を奪われます。夏の日差しは強いものの、海の上を吹き抜ける風を受けながら走る時間は格別。暑ささえも、旅の一部に感じられます。「橋を渡っている」というより、「景色の中を進んでいる」。そんな不思議な感覚です。来島海峡大橋を渡りきり、ループ状の自転車道をゆっくり下ると、いよいよ大島へ到着です。「重点『道の駅』 よしうみいきいき館」で海のごちそうに出会う島に降り立ってすぐに迎えてくれるのが、「重点『道の駅』 よしうみいきいき館」です。しまなみ海道を旅するサイクリストたちが、自然と自転車を止めてしまう人気スポット。その理由は、到着してすぐに分かりました。倉瀨さんが自転車を止めるなり、くんくんと空気を吸い込みます。「いい匂いがしますね。あー、お腹が減ってきました」それもそのはず。潮の香りに混じって、炭火で焼ける香ばしいにおいがふわり。もう、この匂いだけでご飯が食べられそうです…。ここの名物は、目の前の七輪で、獲れたての海の幸をその場で味わえる海鮮BBQ。いけすの中には、サザエやタイ、大きなエビなど、今治の海で育った元気な魚介がずらりと並んでいます。勢いよく跳ねるエビに、思わず「わっ」と声を上げる倉瀨さん。食べる前から、もう大盛り上がり。「どれにしようかな」と迷う時間も、この海鮮BBQの醍醐味です。選んだ食材を網の上にのせると、炭がパチパチとはぜ、貝からあふれる旨みがじゅわっと煮立ちます。あとは、焼けるのを待つだけ。目の前には、さっき自転車で渡ってきた来島海峡大橋。「さっきまであそこを走ってたんですよね。」そんな話をしながら炭火の音に耳を澄ませる時間も、旅の楽しみのひとつ。そして、七輪の上でこんがり焼けたサザエを一口。磯の香りと濃い旨みが口いっぱいに広がります。「走ってきてよかった~。」思わず、そんな一言がこぼれるご褒美の味でした。「Cafe Shozan」で島時間にひと休みさて、お腹を満たした後は、再び自転車を走らせて、島の奥へ。海沿いの道をゆっくり走っていると、涼しげな木陰に青い屋根が印象的な一軒のカフェが見えてきました。「Cafe Shozan」です。自転車を止めて扉を開けると、店内は驚くほど静か。「いらっしゃい。自転車、お疲れさまです。」穏やかな笑顔で迎えてくれたのは、店主の廣田裕子さんです。大きな窓いっぱいに広がるのは、穏やかな瀬戸内海。島影がゆっくりと浮かび、波はほとんど立っていません。さっきまで橋の上で感じていた風とは違う、静かな時間が流れています。「ここの海はね、時間によって全然表情が違うんですよ。」注文したアイスコーヒーとケーキセットを運びながら、廣田さんが話してくれました。神奈川県から大島へ移住し、ご夫婦でこのカフェを始めた廣田さん。きっかけは10年以上前、旅行で立ち寄った今治で、この海の美しさに心を奪われたことでした。「いつか、この景色のそばで暮らしたい。」その思いを胸に土地を購入し、2019年、念願だった大島への移住を実現。飲食店は未経験でしたが、「やってみないと分からない」と夫婦で一歩を踏み出したといいます。店内には、雑貨好きの廣田さんが集めた動物の置物や小物があちこちに並び、どこか肩の力が抜けるような空気が漂います。本を開く人、海を眺める人、静かに会話を楽しむ人。それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。私たちもコーヒーを飲みながら、ただぼんやりと海を眺めてみることにしました。何もしない時間が、こんなにも心地いいとは。気づけば、「そろそろ行こうか」という言葉が、なかなか出てきません。カフェを後にする頃には、走り続けていた身体だけでなく、気持ちまでふっと軽くなっていました。旅の終わりは、海を眺めながらととのう。心地よい疲れが足に残り始めたころ、旅の締めくくりに訪れたのは、大島の海沿いに建つ宿「千年松」の日帰り温泉「満天の湯」です。ここの楽しみは、なんといっても露天風呂。湯船に身を沈めると、思わず「はぁ……」と声が漏れました。風を受けながら走り続けた一日の疲れが、お湯と一緒にゆっくりほどけていくようです。目の前には、穏やかな瀬戸内海。視線を遠くへ向けると、海の向こうには今治のまち並みが見えます。風呂場に使われているのは、大島の特産「大島石」。実はこの「満天の湯」には、一つの物語があります。この温泉は、宿の創業者・故 矢野満直さんが「地元の大島石を生かした風呂をつくりたい」という思いで構想したもの。しかし完成を目前に満直さんは急逝し、その後は妻の真弓さんが4人の子どもを育てながら宿を守り続けてきました。やがて子どもたちは、それぞれ島を離れ、自分の道へ。さまざまな経験を積んだあと、「この宿を未来へつなぎたい」と再び大島へ戻ってきました。露天風呂から眺める穏やかな海が、どこか特別に感じられたのは、そんな家族の物語を知ったからかもしれません。お風呂から上がると、火照った身体を潮風がすっと冷ましてくれます。「気持ちいい~」身体だけでなく、心までぽかぽかと、すっかり「ととのって」いました。今日走った距離は、地図の上で見れば決して長くはありません。それでも振り返れば、橋の上で感じた風、どこまでも続く瀬戸内海の青。その一つひとつが重なって、たった一日の旅とは思えないほど濃い時間になっていました。「景色もきれいだったし、おいしいものもたくさん食べられて最高でした。でも、まだまだ紹介したい場所があるんですよ!」そう言って笑う倉瀨さん。橋を渡るたびに景色が変わり、島ごとに違う表情に出会えるのが、しまなみ海道の魅力。今回は大島までのポタリングでしたが、この先には伯方島、大三島、…と、まだまだ立ち寄りたい場所が続いています。さて、次はどの島へ向かいましょうか。今回立ち寄ったスポット今治糸山レンタサイクル(サンライズ糸山)〒794-0001愛媛県今治市砂場町2-8-1営業時間:3月~11月 8:00~19:00、12月~2月 8:00~18:00公式サイト:https://shimanami-cycle.or.jp/重点「道の駅」 よしうみいきいき館〒794-2114愛媛県今治市吉海町名4520-2公式サイト:https://imabari-shimanami.jp/ikiiki/Instagram:https://www.instagram.com/iki_iki_shimanami/Cafe Shozan〒794-2103愛媛県今治市吉海町福田119営業時間:金・土・日・月曜日 10:00~16:00(L.O.15:00)※月・金曜日は不定休、予約は不可Instagram:https://www.instagram.com/cafe_shozan/海宿 千年松(日帰り温泉「満天の湯」)〒794-2116愛媛県今治市吉海町名駒25営業時間:平日15:00~20:00(最終受付19:00) 土・日曜日、祝・休日13:00~20:00(最終受付19:00)公式サイト:https://sennenmatsu.com/Instagram:https://www.instagram.com/umiyado.sennenmatsu/※営業時間や営業日は変更となる場合があります。お出かけ前に各施設の最新情報をご確認ください。